6月は衣替えの季節。服だけでなく、
気持ちを切り替える機会にしてみましょう。
When changing out your clothes for the season,
refresh your spirit as well.
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浄土宗月訓カレンダーの6月の言葉。
字は大本山金戒光明寺清浄華院第76世法主藤本淨彦台下の揮ごうです。
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今年も衣替えの季節がやってきました。
実は僧侶の衣や袈裟にも、夏物、冬物があり、夏物は6月から9月末まで、冬物は10月から翌年5月末までという決まりになっています。そうはいっても温暖化が進んだ今日では、10月や5月はまだまだ気温も高く、冬物を着る身としてはなかなか辛いものがあります。
さて、一般的に「衣替え」といえば、タンスやクローゼットの中の衣類を冬物から夏物へ、夏物から冬物へと入れ替えることを言いますが、そのタイミングで古くなって着なくなったものを処分したり、着られなくなった子どもの服をお下がりとして親族の子どもにあげたり、必要なものと不要なものとに分け整理することもあるでしょう。
「断捨離」という言葉が一時期流行りましたが、まさにそれですね。この言葉は一見、仏教用語のように聞こえますが、そうではなくヨガに由来する造語だそうです。
ただ、断捨離とは、単に物の整理にとどまらず、情報や関係など不要なものや多すぎるものを断ち、捨て、離れることで、身の回りや心を整理しようというもので、究極的にはこれまでの自分の生き方を振り返り、これからの自分の生き方を見直してみようという意味まで含んでいるようです。
しかし、言うは易し、行うは難しで、そうはいってもなかなか実行できないのもまた事実。
私たちは、せっかく手に入れたものを手放すのは惜しいと思ってしまう生き物です。仏教ではこれを執着(しゅうじゃく)と呼び、苦しみの原因と説いています。
「これは私のモノ」という思いがあると、自分がコントロールできると思ってしまうからですね。でも実際、自分がコントロールできないこともしばしばです。いや、むしろコントロールできないことの方が多いのではないでしょうか。
お釈迦様は、さとりを開いた後の最初の法話で、人生とは苦の連続であること、そして、その苦の種類として、四苦八苦を説きました。四苦とは、生、老、病、死のこと。これに愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦を加えて八苦とします。それぞれは以下の通りです。
生(しょう):生まれること
老(ろう):老いること
病(びょう):病気になること
死(し):死ぬこと
愛別離苦(あいべつりく):大切な人と別れなければいけない苦しみ
怨憎会苦(おんぞうえく):憎らしい人と会わなければいけない苦しみ
求不得苦(ぐふとっく):求めても得られない苦しみ
五蘊盛苦(ごうんじょうく):心と体の働きが次々と欲を生み出してしまう苦しみ
このうち、五蘊盛苦は総括的なものですが、生老病死は自分の身体に起こる変化によって生じる苦しみ、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦は他者との関係性の中で生じる苦しみと言い換えることができるでしょう。
自分の身体さえ自分の思い通りにならないのですから、ましてや他人との関係なんてそれ以上に思い通りにならないことでしょう。しかし、どこかで「こうありたい」「こうあるべき」という思い込みがあればこそ、そうあれない自分に「なぜできないのか」「なぜ違うのか」と苦しんでしまうのです。
2500年も前から仏教では、人はこうした苦しみの中にいると説いてきました。裏を返せば、私たちの悩みの根本は今も昔も変わらないのです。実際に執着を離れることができなかったとしても、「な~んだ、苦しみを抱えているのは私だけじゃないのか!」と思えたなら少しは気が楽になるかもしれません。
心の中も衣替え
冬服から夏服へ。せっかく身が軽くなるのですから、心も軽くしたいものですね。
みなさまにとって、仏教の教えがその一助になれば幸いです。
南無阿弥陀仏